一昨年十六歳の天寿を全うした愛犬のペペは、わたしのもっとも多忙な時期を共に過ごした心の友だった。美男のスピッツで、たいそうプライドは高かったけれど、性格は素直ですばらしくいい奴だった。しかし、あれだけ毛がフサフサしていると、さすがに夏場はキツイ。高温多湿のこの国の夏は、人にとっても犬にとっても最悪の気候だ。いまどき珍しい冷房のない我が家は、彼にとってはたいそうつらい環境だったに違いない。扇風機や冷風機を駆使しても、舌を垂らして苦しそうに喘いでいた。夏の居場所は風呂場で、タイルの床に伏せて体温を下げていた。もっとなにかしてやればよかった。この作品は,彼に対するオマージュである。体を冷やすこんなものがあれば、快適に過ごせたかもしれない。熱伝導率の高いアルミパイプに氷を入れたビニール袋を差し込めば,かなりの冷却効果が期待できる。アルミ材だけでは滑るので嫌がるだろう。間に木を挟み、爪が掛かるようにした。それらをゴムホースでつなぎ、室内の状態に合わせて自由に楽しめるようにした。彼のことを思い出しながら案を作った。
ARCHITECT :
HIROSHI NAITO
建築家・東京大学名誉教授.1950年生まれ。1976年早稲田大学大学院修士課程修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年内藤廣建築設計事務所を設立。2001年から東京大学大学院教授、副学長を歴任後、2011年に退官。主な建築作品に、海の博物館(1992)、安曇野ちひろ美術館(1997)、牧野富太郎記念館(1999)、島根県芸術文化センター(2005)、日向市駅(2008)、高知駅(2009)、虎屋京都店(2009)、旭川駅(2011)などがある
Shimane Arts Center(2005) │ Makino Museum of Plants and People(1999) │ Sea-Folk Museum(1992)